2018年11月01日

古代ローマの彫刻も楽しめる絵画展 ルーベンス展

ミーハーですけど、ルーベンスと言えばアニメ「フランダースの犬」の最終回で主人公ネロが見たかった、アントワープ生母大聖堂の絵が有名です。アントワープ(アントウェルペン)はベルギーの都市。いわゆるフランドル地方にあたります。

私、ルーベンスには素朴なギモンがありました。
ルーベンスはフランドルの出身なのに、いわゆるフランドル絵画、ファン・アイクとかブリューゲルとか、ああいう路線とぜんぜんちがうんです。時代がちがうとはいえ、なんでかな、と。
ふわっとした素朴なギモンです。

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写真は報道内覧会にて撮影

それが、今回の展覧会でよくわかりました。

ルーベンスは、ほとんどイタリアの画家といってもよいのでした。
若いうちにイタリアに滞在し、古代ローマの芸術を熱心に勉強し、自分のものとしました。
古代の次に影響を受けたのが、ティツィアーノの絵画。いわゆるヴェネツィア・ルネサンスです。
2017年に近くの東京都美術館でやっていた「ティツィアーノとヴェネツィア派展」の続編として、ルーベンス展を見るとすんなり呑み込めます。「ヴェネツィア派展」行かなかった人はこちらご参考まで。
https://www.tobikan.jp/exhibition/h28_titian.html

ルーベンスの仕事をひとくちに言うと、図録のアンナ・ロ・ビアンコ氏の言葉を引用すれば
「ルーベンスは古代を激しい調子で再解釈した上で、心を捉える壮大さによって宗教的表現へと変容させた」
とあります。
古典を深く勉強した結果のオマージュがルーベンスの絵に色濃く見られます。

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劇的な画面構成がルーベンスの真骨頂

神話をテーマにした作品は、ネタ元になった絵も分かっていますが、ルーベンス的に独自アレンジをして、よりドラマティックに仕上がってます。
今回メインのヴィジュアルで出ている、磔になった聖人の絵(上の写真にあります)が好例ですね。
元ネタの絵よりも、登場人物の表情やポーズが生き生きしていて、絵の中に物語を感じさせます。
「このあとどうなる?」と思わせる、動的な絵とでもいいますか、ストーリーを想像させる力があります。

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今回のハイライトとなる作品が奥の作品。そしてお手本にしたであろう裸婦彫刻


展示最後の大きな裸婦像も見とれちゃいます。
《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》というタイトルで、神話を題材にしています(真ん中の赤ん坊は蛇のしっぽが生えている)が、見どころはなんといっても3人の裸婦。
正面、横向き、背後からという三態のポージングをまとめているのですが、これはルーベンスが古代ローマの彫刻を観察した結果だそうです。
彫刻をあらゆる角度から絵画に落とし込むことでできた複雑なポージングです。
彫刻も楽しめる絵画展。筆者は日ごろ仏像ファンと接する仕事をしていますが、仏像ファンにもすすめたい展覧会です。

そんなわけで、今回の展示は、17世紀初頭、ルネサンス以後のヨーロッパ絵画と同時に、古代ローマの美術も楽しめるのでした。
展覧会にタイトルにある「バロックの誕生」については、バロックとは何なのかが最後まで出てきませんでした。まあしかし、ルーベンスの絵画は”なんとか派”みたいな言葉がなくても、それだけで圧倒的な存在感があるのです。


【ルーベンス展−バロックの誕生】
2018年10月16日(火)〜2019年1月20日(日)
国立西洋美術館
公式サイト
https://www.tbs.co.jp/rubens2018/


posted by 宮澤やすみ at 16:05 | Comment(0) | ヨーロッパ(中世、ルネサンス) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月15日

東西アート革命「マルセル・デュシャンと日本美術展」

「マルセル・デュシャンと日本美術展」に行って来ました。

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一番有名(?)な作《自転車の車輪》
1964複製/オリジナル1913


トイレの便器に、サインを書いて
「これでもアートなんだぜ、どうよ!」
と、したり顔で展示して、美術のコンセプトをひっくり返した人が、マルセル・デュシャンさんです。

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作品づくりにまつわるメモや複製をパッケージにまとめる仕事もした

デュシャンは20世紀初頭に、まず画家としてスタート。
キュビズムに影響された絵画作品を多く描きますが、すぐ画業をあきらめてしまいます。

「もう画家や〜めた」っていった先から、デュシャンの仕事が始まるわけですが、
対象を分解して再構成するキュビズム絵画と同じように、アート全体もぶっ壊した張本人なんですね。
ほかにも、急に女装して「ローズ・セラヴィ」という架空キャラを演じたり。これって、友近が水谷千重子やるのと同じ?ですよね。

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レディメイド作品の代表。しかもサインは"M. Mutt”という偽名!
《泉》1950複製/オリジナル1917


「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」
という作品も登場。このタイトルを読んでから作品を見ると、性的なモチーフが見えてきます。
便器の作品は「泉」。
こんな感じで、言葉と作品の密接な融合も、デュシャンの作品によくみられます。

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《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》
1980複製(オリジナル1913-1923)


そんなふうなコンセプトをもとに、「日本美術」を見てみよう、というのがこの展覧会のミソ。

いきなり出てきたのは、楽茶碗。

今でこそ高級な美術品というイメージですが、制作当初はかなりパンクなアイディアから生まれました。
金ぴか豪華主義の桃山時代に、真っ黒な手捻りのヘンな茶碗を持ち出した衝撃たるや相当なものだったはず。
このサイトでも、以前わたくしこんなふうに紹介しました↓
「利休と楽は美術界のとんだパンク野郎」
「桃山美術界に殴りこんだ”反逆のアート”」
「楽茶碗はアバンギャルドの極致?『茶碗の中の宇宙』展」アートウォッチャーより

こういう考え方が、楽茶碗にはあるんですね。
そことデュシャンとを、だいぶ強引ですが結び付けてみたよ、という展示です。

そのへんにあった竹を切っただけの花入れが「美」とされるのも、デュシャンの《泉》と通じる?というわけ。

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展示後半は日本美術《竹一重切花入 銘 園城寺》伝 千利休

奇しくも、先日はサザビーのオークションで1億5000万円で落札されたアート作品が、その瞬間に断裁されるという「事件」がありました。
投資の対象になっているアートに疑問をなげかけるパフォーマンスでしたが、これのおかげでかえって価値が高まっちゃうという、ヘンな矛盾が起きてます。
デュシャンも、美術を壊した仕事のおかげでかえって現代美術のスターとして扱われています。

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書=ことばと作品の融合を、デュシャンの言葉遊びとつなげてみる
ーー《舟橋蒔絵硯箱》本阿弥光悦


ちょっとこじつけ感もありますが(笑)、それでも最近は東洋と西洋の美術の共通点を探る行為もよくありますし、わたし自身も運慶を「仏像界のルネサンス」と言ったりしてますので、今どきの美術評論の潮流なのかなと思います。

そんなふうに、時間も空間も超越して横断的に美術を楽しもうよ、という思いが伝わってくる展示です。



東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展
【マルセル・デュシャンと日本美術】
2018年10月2日(火)〜12月9日(日)
東京国立博物館・平成館特別展示室第1室・第2室
公式サイト
http://www.duchamp2018.jp

posted by 宮澤やすみ at 23:32 | Comment(0) | 現代美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月08日

担当はストーンズファン?キャラ立ちが楽しい大報恩寺展

トーハクで開催「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」展が始まりました。
写真は報道内覧会での取材風景です。

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なんと秘仏本尊の釈迦如来もお出まし!

京都で応仁の乱にも焼けず残った大報恩寺。別名は千本釈迦堂。
仏像好きなら京都でぜったいはずせないお寺です。
快慶、定慶(肥後定慶)という、慶派のスターが腕をふるった仏像群が、東京にお出ましになりました。

まずはともかく、今回は図録のカバーデザインがすばらしいです。
カバーに、主役の仏像たちの顔、顔!
顔立ちだけでも、一人一人の個性が見えてくるようです。

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このデザイン、どこかで見たような・・・?

これを見ると、このバンドの絵面を思い出します。

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ローリング・ストーンズのアルバム『Black and Blue』

想像ですけど、図録のデザイン担当者は、ローリング・ストーンズのファンなんですかね。話が合いそうです。

ちなみに、ミック・ジャガーの位置で正面を向いているのは「神通第一」と称される目犍連(もっけんれん)さんです。
どちらの写真も、メンバー一人ひとりの際立つ個性を、一枚で表現した珠玉の写真です。

で、このおじさんたちの写真は、有名な快慶作の十大弟子というもので、たんなるおじさんの群像(笑)と思ったら大間違い。
釈迦の直属の高弟とされ、それぞれキャラが立ってます。
一人ひとりが独自の能力を発揮する超人なのだ!(詳しくは展示をご覧あれ)

続いて、美しい六観音が登場。肥後定慶という仏師の作。
いまから約800年前、鎌倉時代、有名な運慶の後を担う慶派仏師のスターが造りました。

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仏像ファン垂涎の六観音

よく慶派の仏像は写実的と評され、この像もそうなんですが、よく見ると、この鎌倉時代よりさらに300年以上さかのぼる、平安時代前期の古仏に寄せて作られているようにも感じます。
以前、「仁和寺展」で見た、道明寺の十一面観音像(この連載でも書きました)のような、うねるようなドレープの衣の表現が、大報恩寺の六観音の衣にも見られるんじゃないでしょうか。
一番特徴的なのは、十一面観音のスネのあたりです。
その部分の衣文の襞が、太い襞、細い襞と交互に表現されていて、これってまさに平安時代初期の様式じゃないですか(「翻波式衣文」といいます)。
写真掲載できないので、ぜひ展示室で確認ください!

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こちらは千手観音の横から姿

ぼくのような天平〜平安初期の古仏ファンは、「翻波式衣文」が大好物。
室生寺とかに行くと観られる様式です。
肥後定慶さん、こうした仏像の古典をちゃんと勉強しているんですね。
パクリとかマネなんかじゃなく、これこそ「リスペクト」というものです。


ところで、本展の関連イベントとして、「JAZZと声明の調べ」など音楽イベントがあるそうですが、
なんでこういうときに我々The Buttzを呼ばない〜!
せっかく仏像バンドという活動をしているのですから、こういう時はぜひ呼んでほしいなあ。アコースティック編成も可能ですし。
今後仏像寺社系イベントをご担当される方、よろしくお願いいたします!


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特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
2018年10月2日(火) 〜 2018年12月9日(日)
東京国立博物館 平成館 特別展示室第3室・第4室
公式サイト
https://artexhibition.jp/kaikei-jokei2018/


※この記事は、仏像ワールドWEBサイトでの連載「宮澤やすみの仏像ブツブツ」の記事を転載しています。


posted by 宮澤やすみ at 12:43 | Comment(0) | 日本(仏像、考古) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月01日

「記録」から「創作」へ、絵画の存在意義「ターナー 風景の詩」展


ターナーというと、独特の「もわ〜っ」とした画風が印象的なんですけど、その理由はなんなのか、気になっていました。
19世紀前半にイギリスで活躍した近代絵画の巨匠です。

今回開催された「ターナー 風景の詩(うた)」展では、若い頃から晩年まで、展覧会ぜんぶターナー作品が並ぶもの。


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報道内覧会で解説いただいたのは、スコットランド国立美術館群 総館長 ジョン・レイトン卿。この方の話がじつにスマートで、われわれ下々の者にも的確にみどころを伝えてくれました。まさに本物の紳士。

年代ごとにいろんな画風が見られます。

若いころの作品は、写実的で緻密な風景画です。
また、職業画家として制作したエッチングなどの版画作品も緻密なタッチで、視力の弱い私が遠くから見ると本当に写真のように見えました。自分の創作と仕事としての制作と、描き分けていたんじゃないかと思います。

しかし、はじめから単なる風景画家では終わらない気風があったようです。
若いころの作品で、スノードン山の風景が展示されていますが、細かい描写も描き込んでいるものの、山には霧が煙って水墨画のよう。
この感じをつきつめて、晩年の「もわ〜っ画面」に行き当たったのでしょうか。
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《スノードン山、残照》1798-1799年 水彩、スクレイピングアウト・紙 52.7×75.6cm
エディンバラ、スコットランド国立美術館群 ©Trustees of the National Galleries of Scotland


展示で解説されていたのは「崇高」というワードでした。
風景画もただの写生には終わらず、人智を超えたなにかを感じさせる崇高さを表現してます。
ターナー自身の思想は、人間なんてちっぽけなものさという考えがあったようで、大自然のパワーと古代文明のあこがれみたいなものがあったようです。
現代の男の子と同じ趣味ですね。きっとオーパーツとかUFOの話とかしたら食いつくんじゃないでしょうか。

そんなターナーですから、イタリアで古代文明に接してかなり感化されたそうです。
以降、風景を描いてもなにかの思想を感じる作品が見られます。
今回は《キリスト教の黎明(エジプトへの逃避)》という作品も展示されてますが、これなどまさにスピリチュアルな旅の影響が色濃く見えていますからぜひ会場でご鑑賞ください。

で、到達するのがこの作品。亡くなる10年ほどまえの作です。

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レイトン卿とともに本展を監修された郡山市立美術館の富岡進一主任学芸員。ターナー晩年の作品《風景−タンバリンをもつ女》を解説

展示最後にあった、スイスのルツェルンを描いたとされる小品《ルツェルン湖越しに見えるピラトゥス山》も印象的でした。
ぜひ会場で見てください。もはや禅の水墨画と同じ境地なのではないかと思うような、枯れた味わいの作品です。

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イギリス、イタリア、スイス、静かな空間で絵画の旅を楽しむ

ターナーの時代は、産業革命で社会がどんどん変わっていく時代。
人間の文明の力と素朴な自然が対立するなか、ターナーなりに折り合いをつけようとしていたのではないでしょうか。
さらに、写真が発明されたのもこの頃です。

19世紀の風景画家は、大富豪の邸宅と敷地を描いて「記録」する仕事がメインだったそうですが、それって今なら写真を撮って終わりですもんね。

19世紀半ば、写真技術が広まる中、記録係としての画家はどう生きていくべきか。
画家たちは、写真にはできない、絵の表現を模索していたことでしょう。

ターナーは、イタリアの旅の経験から、光を捉えることに注力したそうで、そこから発展してターナーなりの絵画様式が完成します。

風景のなかで光を捉えるやり方、これはまさに「印象派」の考え方ですよね。

解説によると、モネなどはターナーの絵をかなり研究して自分の作品の取り入れたそうです。

さらに、独特の「もわ〜っ」画風は、20世紀のマーク・ロスコにも影響を与えたそうです。

というわけで、近現代絵画は、ターナー無しに語れないのであります。

今回、そのターナーを存分に味わえる展示、アートファンなら見逃せないと思います。



イギリス風景画の巨匠
ターナー 風景の詩(うた)

(東京展)
2018年4月24日(火)〜7月1日(日)
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
http://www.sjnk-museum.org/


<巡回>
2月17日〜4月15日 京都文化博物館(終了)
7月7日〜9月9日 郡山市立美術館

公式サイト:
https://turner2018.com/


posted by 宮澤やすみ at 17:54 | Comment(0) | ヨーロッパ(近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月19日

仏像展示の集大成「仁和寺と御室派のみほとけ」展

東京国立博物館の「仁和寺と御室派」展。
筆者の専門にちょうど重なる領域であり、取材と紹介にも力が入ります。
こちらのサイトに連続で記事掲載されていますので、好きなところからご覧ください。特別に撮影した写真や動画があります。

「撮りたい欲」を解放! 仁和寺展の観音堂再現
 https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20180120-2/

秘仏を間近で!「仁和寺と御室派展」
 https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20180127-2/

秘仏かつ古仏、その魅力を存分に!「仁和寺と御室派展」
 https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20180203-2/

葛井寺の千手観音、東京に光臨
 https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20180217-2/


歴史ファンも、古仏ファンも、秘仏好きも、慶派マニアも、誰もが「これはすごい」となる稀有な展示ですよ!

 


posted by 宮澤やすみ at 12:15 | Comment(0) | 日本(仏像、考古) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする