2019年07月16日

素朴すぎる彫刻もたのしい「日本の素朴絵」展

先日は東京・三井記念美術館の特別展「日本の素朴絵」を取材してきました。

忙しいなかでも大注目していた展覧会です。
「絵」とありますが、仏像や神像も期待以上のものでしたよ。

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この神像のインパクトもたまらんです。《男神・女神坐像》中世〜近世 出雲文化伝承館蔵

監修された矢島新先生(跡見学園女子大学教授)によると、世の中で見るゲージュツ的な作品はFine Artと呼ばれるもので、それを「美術」という言葉に訳したのが明治のころ。
いっぽう、それ以前の日本にはファイン・アートの対極に位置するような作品があふれていた。これを今回「素朴絵」という言葉で捉えたのですが、これこそ「日本美術の根幹」であると先生はおっしゃいます。

要するに、「ゆるい」「へたうま」「カワイイ」「ヘンなもの」そんな言葉で捉えられる価値観で作品を楽しみましょうよというのが、本展の主旨かと思います。

全体の構成は、「素朴な世界(地獄絵、妖怪)」「庶民の素朴絵」「知識人の素朴絵」「絵巻と絵本」「奇獣、幻獣」そして仏像ファンも注目の「立体に見る素朴」など、あらゆる方向から「素朴」を追求していて、この展示を見れば誰でも素朴博士(なんだそれ)になれそうです。

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仏像もだいぶゆるい。でも衣文のキレ具合は本格的な翻派式衣文で10世紀の貴重な作例としてあなどれない。
《薬師如来坐像》平安時代(10世紀)兵庫・満願寺蔵。さらに横には木喰仏、円空仏も


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この埴輪が抱えるイノシシに注目!か、かわいすぎる……

掛け軸の作品を見ると、閻魔さんも雲水も、今ならすぐにゆるキャラとしてグッズ化されそうなカワイイ絵がいっぱい。
その作者は、アマチュアもプロも入り乱れ、「素朴」のオンパレード。

たとえば、「素朴絵の代表」と矢島先生が推す《絵入本「かるかや」》は、「シロウトががんばって描いてこうなっちゃった」パターン。
《つきしま絵巻》は「プロが狙った素朴」。
どれも、見ていて口元がゆるみます。
なかには、テーマ自体はシリアスだったりありがたい仏教説話とかもあるのに、絵がカワイすぎて哀しい場面なのに笑っちゃうという事態にもなる(笑)。

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春風亭小朝みたいな顔した大黒天。下にいるネズミがカワイイ

「美術」の対極にある作品を美術館で鑑賞するという、パラドックス的な体験が楽しい。
ここは東京・日本橋の美術館。でも気分はラフォーレ・ミュージアムに来たみたいです。

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オカルト界隈には有名な「江戸時代のUFO」も展示!「奇獣、幻獣」コーナーも面白い


仏像ファンの間では、貴族が発願した立派な文化財級仏像と、道端の素朴な石仏のどちらにもかけがえのない価値(美的にも宗教的にも)があることは理解されると思います。

美術全体ではどうでしょうか。
「そろそろ日本人もこういうものの価値に目覚めてほしいよねえ」と、矢島先生がつぶやいていらっしゃいました。

サブカル方面ではだいぶ前から「珍スポット」「珍看板」などなどヘタウマ”素朴”作品を「珍●●」として取り上げてきました。それは決して見下しているのではなく、良く言えば考現学的な目線で珍重してきたのですが、先生のおっしゃりたいのは、「素朴絵」こそ、メインストリーム(とされる)美術と肩を並べて胸を張って価値を語れるはず、ということなんじゃないでしょうか。
むしろ、何百年も脈々と続く日本人なりの美意識は「素朴絵」にあると。「ゆるい」も「かわいい」も「ヘン」も価値であると。

こう書くと、なんだか大上段に構えて美術論を説くみたいですけど、取材時も、先生の解説で会場笑いが絶えませんでした(笑)。
逆に言えば、サブカル的「珍●●」の楽しみ方のほうが、もともとあった日本人の伝統的な感覚なのかもしれません。
これまで何度も訪れた三井記念美術館ですけどこんなに和やかな雰囲気は初めてでした。
4期にわたって展示替えがあるので何回も楽しみたい展覧会です。


特別展「日本の素朴絵」
−ゆるい、かわいい、たのしい美術−
三井記念美術館
2019年7月6日(土) 〜9月1日(日)
詳細は美術館のHP
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/
posted by 宮澤やすみ at 11:55 | Comment(0) | 日本(中世-近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

奈良のスター仏像が東京に|特別展「大和四寺のみほとけ」

先週から始まっているのが「大和四寺のみほとけ」展。
仏教伝来間もない飛鳥時代からの古刹に伝わる仏像がずらり。古代史ファン、仏像ファンともワクワクが止まらない展示になっています。

今回注目の四寺とは、長谷寺、室生寺、岡寺、安倍文殊院のこと。
仏像初心者の方も、どこかで見たことのあるはずの有名な仏像たちが目の前に。これは興奮しますよ。

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展示のようす。内覧会にて許可を得て撮影

展示室の右側にちょこんと座っているのは、岡寺の菩薩半跏像。1300年くらい前にさかのぼる大変貴重な古仏ですが、小さくて童顔でほんとうにカワイイ。

そして、展示室奥のステージに立つのは、有名な室生寺の十一面観音菩薩さん。
ふっくらほっぺに小さなお口。唇の紅がしっかり残っていて女性的な美しさなのですが、目つきは厳しく、胸板も男性的。しかし腰のくびれぐあいはなまめかしい、という、性別を超越した美しさが間近で堪能できます。
筆者もこれまで何度もお目にかかった美仏ですが、あらためて眼前にいると、その圧倒的魅力にクラクラしますね。

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室生寺の地蔵菩薩と十一面観音菩薩。光背の極彩色の絵がすばらしく歴史的にも貴重な史料となっています

ちなみに、以前はテレビ番組で、長谷寺と室生寺を案内させてもらいました(過去記事)。
その時は金堂内陣での撮影もあり、貴重な経験をさせていただきました。

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室生寺金堂にて。女優・相武紗季さんとの奈良聖地めぐりでした

しかも女優の相武紗季さんとご一緒でき、あのロケは私の人生のハイライトでした(笑)

それはさておき、大和四寺の展示です。
室生寺の仏像ではもう一体、国宝の釈迦如来坐像もお出ましです。鋭い衣文線に注目。
前回東京で展示されたときはガラス越しでしたが今回はガラス無し。裏側も見やすく存在感がダイレクトに伝わります。


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展示のようす。流麗な衣文線が美しい室生寺の釈迦如来坐像

長谷寺の仏像は、さすがに10mのご本尊はムリですが、こちらの十一面観音さんは、貫主さまの寝所に安置されている仏像。

安倍文殊院からは、本尊・文殊菩薩(快慶作)の胎内に収められていたという貴重な納入物が展示。


この四寺を軸に、基本をおさらいすると、仏教以前の日本、古代ヤマト王権の中枢は、奈良盆地の南端・三輪山が中心でした。
この山をご神体としてその西側に政治の中枢ができました。
箸墓古墳をはじめとする古墳群や、纏向遺跡で知られる場所です。

ここに仏教が伝来して、数々の寺院が建って、以降の歴史が動いていくのでありました。
安倍文殊院は、大化の改新があった645年の創建。岡寺も飛鳥の古いお寺。
長谷寺は、大和の政権中枢からみて三輪山の裏側、つまり東側に位置し、その先には伊勢神宮があるという重要地点です。
室生寺も大和−伊勢ラインの山中にある聖地がもとになって、寺院が開かれたのでした。

どれも、古い日本の時代をリードした重要な寺院です。

東京国立博物館の本館11室(正面入って右手)での展示です。



特別企画 奈良大和四寺のみほとけ
東京国立博物館 本館11室
2019年6月18日(火) 〜9月23日(月・祝)
詳細は東京国立博物館のHP
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1966
posted by 宮澤やすみ at 11:50 | Comment(0) | 日本(仏像、考古) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

古代史ロマンティックが止まらない−特別展「出雲と大和」

気の早い話ですが、令和2年のビッグイベントは東京国立博物館の特別展「出雲と大和」。
先日記者発表会がありました。

島根県の出雲といえば、出雲大社を中心に興味深い神社だけでなく仏像も点在する寺社ファンにはたまらない地域。
今回の展示では、出雲大社のご神宝から、地域で発掘された銅剣、銅鐸、銅矛など、古代祭祀の遺物がずらり。古代史ロマンの世界を堪能できます。


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報道資料をいただきました

対する大和(奈良)は、ヤマト王権の拠点であり、古代日本の中枢です。展示は古代の刀や埴輪、そして三角縁神獣鏡も。ワクワクしますね。

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大寺薬師の広目天。展示では4体そろって展示されるそうです!(大寺薬師収蔵庫にて許可を得て筆者撮影)

そして仏像もすごい。
まず出雲の仏像は、別の連載でも紹介した大寺薬師の四天王。これほんとカッコいいんですよ。2m近い大きな木造で、量感たっぷりの力強い造形。平安時代の前期の作です。
大寺薬師のある地域は今は時が止まったような里の風景ですが、そこにこんなに立派な仏像があるというのがすごい。古代には、大和と出雲を結ぶ重要地点だったことが偲ばれます。
これまた歴史ロマンですね。

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仏像がある大寺駅前の風景。鉄道ファン目線でも魅力ある場所

大和の仏像は、まず当麻寺の四天王。日本で二番目に古い像で、貴重な白鳳期(飛鳥時代後期)の像です。
この後有名な阿修羅像などに採用される脱活乾漆造の像。当時最新のテクノロジーをいち早く採用して造られたもので、顔立ちもエキゾチック。海外の文化を積極的に取り入れていた大和朝廷の姿勢がうかがえます。
写真は、展覧会サイト(下記)に大きく出ています。

そして、日本最古といわれる謎の石仏が登場。
大和の拠点、三輪山から少し奥まったところにある石位寺の、《浮彫伝薬師三尊像》。腰かけたスタイルの倚像三体がバランスよく石に彫られていて、その立体感がすごい。そして古いのにこの保存状態のよさ。私も何度も石位寺には行っていますが、毎回おどろきます。
お寺のすぐ近くには鏡女王(藤原鎌足の妻)の墓や舒明天皇陵があって、この地域も古代史ロマンあふれまっくてます。

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石位寺から見える風景。古代ロマンが止まらない

ちなみに、なぜ出雲と大和なのかというと、資料によると、出雲は大国主命(オオクニヌシ)が「幽」の世界を司り、大和は「顕」の世界を司るとあります。「幽」とは人間世界を超えた神々の世界、「顕」とは現実世界や政治の世界であり、両者一対となって日本の国がかたち造られていった、というようなコンセプトです。

来年2020年は『日本書紀』編纂から1300年の記念年でもありまして。
オリンピックで世界から注目される年に、日本の原点を問うというのは意義あることかと思います。

そんな、古代日本のいちばん濃いところを一挙に紹介してもらえる「出雲と大和」展。今から楽しみです。


日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」
東京国立博物館 平成館
2020年1月15日(水)−3月8日(日)
詳細は公式サイト
https://izumo-yamato2020.jp/
posted by 宮澤やすみ at 11:44 | Comment(0) | 日本(仏像、考古) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

芸術と女性の追求? クリムト展

東京、愛知で「クリムト展」開催中です。
クリムトの作品は少ないうえになかなか貸し出しもむずかしいらしく、これだけ大規模な回顧展が開かれるのは非常にめずらしいそうです。

クリムトと言えば、妖艶な女性の姿に金箔をあしらった作品が有名で、今回もメインのヴィジュアルはこちらが出ていますね。

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図録の表紙にも選ばれている《ユディトT》1901年

日本の絵画や工芸品から影響を受け、絵画に金箔を使う、クリムトの「黄金様式」の代表作です。

旧約聖書登場する未亡人をテーマに描いたもので、作品の画面右下には男性の生首があるんですよ(この写真にもちょっと写ってますが)。
祖国を救うために敵国の大将を誘惑し、その首を取ったという話です。

クリムトの時代、神話を舞台に男性を惑わし破滅させる妖艶な女性「運命の女(ファム・ファタル)」を題材にして絵を描くのが流行ったそうです。
今ちょうど東京・新橋ではギュスターヴ・モローの展覧会もやっていますけど、こちらも「ファム・ファタル」を前面に押し出した展覧会になっています。流行ってるんですかね。

クリムトは、生涯独身だったのですが、女性遍歴はだいぶ奔放で、数々の女性を孕ませて、子供がたくさんいたそうです。

今回の展示では、クリムトと関係のあった女性たちの肖像画がいくつも出ています。みなさん意志が強そうな美人……。

現代ではなかなかクリムトさんと同じような行動はできませんけど、さすが19世紀末のアーティストといいますか、クリムトさんからは、ただのエロオヤジというのでは済まないすさまじいまでの女性愛を感じます。どうやら女性に生命の神秘を感じていたようで、飽くなき芸術的探求心というか、追求せずにはいられない対象だったんでしょうか。

そうした行動が結実した作品が《女の三世代》という大きな作品です。赤ん坊とその子を抱く若い母、その横に立つ痩せさらばえた老婆という女性三体を、日本画の影響を受けた独特の装飾で囲んだ絵画作品です。
公式サイトに大きく出ていますけど、現場で実物見ると引き込まれますよ。

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写真右奥の作品が《女の三世代》。これ以降の写真は報道内覧会で許可を得て撮影


ほかに目に留まったのは《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》。
右手に持つ鏡は真実を象徴し、足下には罪を象徴する蛇がいます。この鏡を突き付けられるのは鑑賞している私たちで、見ているこちらに何かを投げかけているというわけなんですね。

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かなり縦長の作品です

画面上部の金色部分には興味深い言葉があります。
図録によるとこれはフリードリヒ・シラーの言葉で、

「汝の行為と芸術をすべての人に好んでもらえないのなら、それを少数者に対して行え。多数者に好んでもらうのは悪なり」(クリムト展図録より引用)

というものです。

この絵が描かれた1899年は、クリムトがそれまで古典的な作風の優等生だったのが、腹をくくって新しい芸術に一歩踏み出した時期だそうです。だから、自らを奮い立たせる言葉ともいえますね。
実際、クリムトはこの方針転換で大成功しました。

あんまり時代に迎合とか、大衆に売れる作品をとか、そういうこと考えてちゃダメよ、と。
まあね、自分の作品制作を生業にするとなると、考えちゃいますよね(笑)で、そう考えて作っても売れないのですがね。

私自身もいちおう作品作りをしている身の上ゆえ、なんだかこの作品と言葉が響いたのでありました。

ほかにも、約30メートルの壮大な壁画の精細な複製など見どころ多い展覧会です。


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私が印象に残ったのは、姪っ子を描いた《ヘレーネ・クリムトの肖像》1898年。愛人とは異なる無垢な愛でございます

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ミュージアムグッズも充実。これは金のゼリー。味は素朴な駄菓子っぽいパイン味


【クリムト展 ウィーンと日本 1900】
2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
東京都美術館企画展示室
7月23日から豊田市美術館に巡回
公式HP
https://klimt2019.jp


posted by 宮澤やすみ at 11:37 | Comment(0) | ヨーロッパ(近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする