2019年07月16日

芸術と女性の追求? クリムト展

東京、愛知で「クリムト展」開催中です。
クリムトの作品は少ないうえになかなか貸し出しもむずかしいらしく、これだけ大規模な回顧展が開かれるのは非常にめずらしいそうです。

クリムトと言えば、妖艶な女性の姿に金箔をあしらった作品が有名で、今回もメインのヴィジュアルはこちらが出ていますね。

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図録の表紙にも選ばれている《ユディトT》1901年

日本の絵画や工芸品から影響を受け、絵画に金箔を使う、クリムトの「黄金様式」の代表作です。

旧約聖書登場する未亡人をテーマに描いたもので、作品の画面右下には男性の生首があるんですよ(この写真にもちょっと写ってますが)。
祖国を救うために敵国の大将を誘惑し、その首を取ったという話です。

クリムトの時代、神話を舞台に男性を惑わし破滅させる妖艶な女性「運命の女(ファム・ファタル)」を題材にして絵を描くのが流行ったそうです。
今ちょうど東京・新橋ではギュスターヴ・モローの展覧会もやっていますけど、こちらも「ファム・ファタル」を前面に押し出した展覧会になっています。流行ってるんですかね。

クリムトは、生涯独身だったのですが、女性遍歴はだいぶ奔放で、数々の女性を孕ませて、子供がたくさんいたそうです。

今回の展示では、クリムトと関係のあった女性たちの肖像画がいくつも出ています。みなさん意志が強そうな美人……。

現代ではなかなかクリムトさんと同じような行動はできませんけど、さすが19世紀末のアーティストといいますか、クリムトさんからは、ただのエロオヤジというのでは済まないすさまじいまでの女性愛を感じます。どうやら女性に生命の神秘を感じていたようで、飽くなき芸術的探求心というか、追求せずにはいられない対象だったんでしょうか。

そうした行動が結実した作品が《女の三世代》という大きな作品です。赤ん坊とその子を抱く若い母、その横に立つ痩せさらばえた老婆という女性三体を、日本画の影響を受けた独特の装飾で囲んだ絵画作品です。
公式サイトに大きく出ていますけど、現場で実物見ると引き込まれますよ。

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写真右奥の作品が《女の三世代》。これ以降の写真は報道内覧会で許可を得て撮影


ほかに目に留まったのは《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》。
右手に持つ鏡は真実を象徴し、足下には罪を象徴する蛇がいます。この鏡を突き付けられるのは鑑賞している私たちで、見ているこちらに何かを投げかけているというわけなんですね。

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かなり縦長の作品です

画面上部の金色部分には興味深い言葉があります。
図録によるとこれはフリードリヒ・シラーの言葉で、

「汝の行為と芸術をすべての人に好んでもらえないのなら、それを少数者に対して行え。多数者に好んでもらうのは悪なり」(クリムト展図録より引用)

というものです。

この絵が描かれた1899年は、クリムトがそれまで古典的な作風の優等生だったのが、腹をくくって新しい芸術に一歩踏み出した時期だそうです。だから、自らを奮い立たせる言葉ともいえますね。
実際、クリムトはこの方針転換で大成功しました。

あんまり時代に迎合とか、大衆に売れる作品をとか、そういうこと考えてちゃダメよ、と。
まあね、自分の作品制作を生業にするとなると、考えちゃいますよね(笑)で、そう考えて作っても売れないのですがね。

私自身もいちおう作品作りをしている身の上ゆえ、なんだかこの作品と言葉が響いたのでありました。

ほかにも、約30メートルの壮大な壁画の精細な複製など見どころ多い展覧会です。


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私が印象に残ったのは、姪っ子を描いた《ヘレーネ・クリムトの肖像》1898年。愛人とは異なる無垢な愛でございます

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ミュージアムグッズも充実。これは金のゼリー。味は素朴な駄菓子っぽいパイン味


【クリムト展 ウィーンと日本 1900】
2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
東京都美術館企画展示室
7月23日から豊田市美術館に巡回
公式HP
https://klimt2019.jp


posted by 宮澤やすみ at 11:37 | Comment(0) | ヨーロッパ(近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月09日

ギュスターヴ・モロー展−画家の「こじらせ女性愛」

汐留でギュスターヴ・モロー展が開催されています。

産業革命だの印象派だの、外では新しいことが起きていた19世紀のフランスで、ひとり家に籠って、神話や古典を題材に独自の絵画を制作していたギュスターヴ・モロー。

象徴主義を代表する大画家でありますが、今回の展示をみると、「ちょっとギュスターヴさん…そんなに思い詰めないで…」と声をかけてあげたくなる、ギュスターヴさんの性格というか性癖というか、なにか闇が見えてくるのでした。

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写真は報道内覧会で許可を得て撮影

展示全体を通したテーマは「女性」です。

まず最初はギュスターヴさんの女遍歴の紹介。
といっても、この方、まず母親が一番、そしてアレクサンドリーヌという一人の女性が生涯のパートナーで、派手なことは一切なし。

そして、絵画制作でさまざまな女を描いたのでした。その姿は、

サロメやセイレーンなど、男を惑わしてきた女性たち。
エウロペやレダなど、男神に誘惑され(でもまんざらでもない)女性たち。

「ファム・ファタル(宿命の女)」と言われる、男を破滅に導く伝説上の女性をたくさん描いています。
有名なサロメの絵などは、展示や公式サイトをご覧ください。
その女性がどれも妖艶な美しさで輝くようです。
男性の姿は、巫女たちによって八つ裂きにされ、もはやひとつの肉片と化している血まみれのオルフェウスが印象的でした。

ギュスターヴさんの、女性に対する言葉も展示されています。曰く、

ーー女というのは、その本質において、未知と神秘に夢中で、背徳的悪魔的な誘惑の姿をまとってあらわれる悪に心を奪われる無意識的な存在なのである−−

ちょっとギュスターヴさん!今こんなことSNSで書いたら大炎上ですよ!
なにしろ、19世紀の白人社会でのことで現代とは意識がちがうのは仕方ないことかと思います。
それにしてもギュスターヴさんの女への思いは濃密。女性に恐怖し、同時に憧れて。
作品は神々しいまでに美しい女性像なのに、なにか冷たいものが背筋を走る、そんな作品が並びます。

そして展示の最終章は、
純潔を象徴するユニコーンと戯れる処女たち。

結局、処女がいいんか〜〜い!!

とツッコミを入れたくなるのですが、ギュスターヴさんのねじくれた女性の好みが垣間見える展示でした。
引きこもり気質で、あまり人と交わらず、絵画制作に打ち込んだギュスターヴ・モロー。
ちょっと「こじらせ系」の人であるようですが、そこから生まれた深遠な絵画世界は後世に大きな影響を与えています。

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一角獣を描いた晩年の作品

ちょうど先日、「中高年の引きこもりが61万人」というニュースがありましたが、ギュスターヴ・モローは現代の引きこもりの方々に、希望を与える人でもあるでしょうか。


「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」
2019年4月6日〜6月23日
パナソニック汐留美術館 にて
10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで 毎週水曜休
https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/19/190406/
posted by 宮澤やすみ at 14:47 | Comment(0) | ヨーロッパ(近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月20日

「チューリップ時代」の深い意味−トルコ至宝展−

「チューリップ時代って何よ」
と一人でツッコミを入れたのは、世界史の受験勉強のとき。
参考書の近代の章は戦争の記事だらけの中で、イスラム世界の短い解説に突如現れた「チューリップ時代」という、妙にハッピーなワードがものすごく引っかかったのでした。
以来、オスマントルコといえば「チューリップ時代ってのがあるんだよ」という認識だけで日々人生をすごし、数十年。やっとその真相に触れる日が来たのでした。

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全体にチューリップ柄があしらわれたカフタンという装束。スレイマン1世(在位1520-66)がお召しになったもの
写真は報道内覧会で許可を得て撮影


今回の「トルコ至宝展」では、歴代のスルタン(オスマン帝国の皇帝)が残したお宝を展示。
きらびやかな宝飾、衣装、調度品。トプカプ宮殿の美は、ヨーロッパとアジア(中国、日本も)の両方からよいものを集めて独自の美意識でオスマントルコの世界観が展開されます。

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《宝飾兜》16世紀後半。軍隊の習慣として、兜の前立てをスプーンとして使った例もあったそうですが、この《宝飾兜》はさすがにそういう使い方はしません。あくまで防御板であります

世界史で「チューリップ時代」というのは、18世紀の国内安定期にヨーロッパと良好な関係を保った時のことを言い、そのときにチューリップが流行したことからこの名称がついてます。

ただ、オスマントルコにとってチューリップは昔から非常に重要な花だったようです。
トルコの言葉でチューリップは"Lâle"(ラーレ)といいます。これをアラビア語で書いて、そのつづりを並べ替えると、なんと「アッラー」となるんだそうです。
ほかにもアラビア語の数秘術からもアッラーに通じ、さらには「チューリップは一つの球根から一つの花が生じるため、イスラーム信仰における神の唯一性(タウヒード)を示唆すると解されました」(展示パネル解説文より)とのことから、チューリップは宗教的な面でも非常に大事な花なのでした。

仏教だったら蓮、キリスト教だったらユリ、といった位置づけでしょうか。

これで、私のなかで「チューリップ時代ってなんだよ」の疑問が解け、スッキリしました。
戦乱ばかりだった近代の、つかの間の平和が「チューリップ時代」。人の一生もトラブル多いものですが、自分なりの「チューリップ時代」を求めていきたいと思うのでした。

展示は最後まできらびやかな美に浸り、贅沢な時間を過ごせます。

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アラビア書道のコーナーは、宮殿の部屋に入ったかのようなしつらえ

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展示室のしつらえもトプカプ宮殿を意識したのでしょうか。すごく凝った造りになっていて、テーマパークを訪れたようで楽しいです。


【トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美】
2019年3月20日(水)〜5月20日(月)
国立新美術館 企画展示室2E

(巡回)
京都国立近代美術館
2019年6月14日(金)〜7月28日(日)

公式サイト
https://turkey2019.exhn.jp/

posted by 宮澤やすみ at 15:06 | Comment(0) | ヨーロッパ(近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月01日

「記録」から「創作」へ、絵画の存在意義「ターナー 風景の詩」展


ターナーというと、独特の「もわ〜っ」とした画風が印象的なんですけど、その理由はなんなのか、気になっていました。
19世紀前半にイギリスで活躍した近代絵画の巨匠です。

今回開催された「ターナー 風景の詩(うた)」展では、若い頃から晩年まで、展覧会ぜんぶターナー作品が並ぶもの。


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報道内覧会で解説いただいたのは、スコットランド国立美術館群 総館長 ジョン・レイトン卿。この方の話がじつにスマートで、われわれ下々の者にも的確にみどころを伝えてくれました。まさに本物の紳士。

年代ごとにいろんな画風が見られます。

若いころの作品は、写実的で緻密な風景画です。
また、職業画家として制作したエッチングなどの版画作品も緻密なタッチで、視力の弱い私が遠くから見ると本当に写真のように見えました。自分の創作と仕事としての制作と、描き分けていたんじゃないかと思います。

しかし、はじめから単なる風景画家では終わらない気風があったようです。
若いころの作品で、スノードン山の風景が展示されていますが、細かい描写も描き込んでいるものの、山には霧が煙って水墨画のよう。
この感じをつきつめて、晩年の「もわ〜っ画面」に行き当たったのでしょうか。
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《スノードン山、残照》1798-1799年 水彩、スクレイピングアウト・紙 52.7×75.6cm
エディンバラ、スコットランド国立美術館群 ©Trustees of the National Galleries of Scotland


展示で解説されていたのは「崇高」というワードでした。
風景画もただの写生には終わらず、人智を超えたなにかを感じさせる崇高さを表現してます。
ターナー自身の思想は、人間なんてちっぽけなものさという考えがあったようで、大自然のパワーと古代文明のあこがれみたいなものがあったようです。
現代の男の子と同じ趣味ですね。きっとオーパーツとかUFOの話とかしたら食いつくんじゃないでしょうか。

そんなターナーですから、イタリアで古代文明に接してかなり感化されたそうです。
以降、風景を描いてもなにかの思想を感じる作品が見られます。
今回は《キリスト教の黎明(エジプトへの逃避)》という作品も展示されてますが、これなどまさにスピリチュアルな旅の影響が色濃く見えていますからぜひ会場でご鑑賞ください。

で、到達するのがこの作品。亡くなる10年ほどまえの作です。

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レイトン卿とともに本展を監修された郡山市立美術館の富岡進一主任学芸員。ターナー晩年の作品《風景−タンバリンをもつ女》を解説

展示最後にあった、スイスのルツェルンを描いたとされる小品《ルツェルン湖越しに見えるピラトゥス山》も印象的でした。
ぜひ会場で見てください。もはや禅の水墨画と同じ境地なのではないかと思うような、枯れた味わいの作品です。

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イギリス、イタリア、スイス、静かな空間で絵画の旅を楽しむ

ターナーの時代は、産業革命で社会がどんどん変わっていく時代。
人間の文明の力と素朴な自然が対立するなか、ターナーなりに折り合いをつけようとしていたのではないでしょうか。
さらに、写真が発明されたのもこの頃です。

19世紀の風景画家は、大富豪の邸宅と敷地を描いて「記録」する仕事がメインだったそうですが、それって今なら写真を撮って終わりですもんね。

19世紀半ば、写真技術が広まる中、記録係としての画家はどう生きていくべきか。
画家たちは、写真にはできない、絵の表現を模索していたことでしょう。

ターナーは、イタリアの旅の経験から、光を捉えることに注力したそうで、そこから発展してターナーなりの絵画様式が完成します。

風景のなかで光を捉えるやり方、これはまさに「印象派」の考え方ですよね。

解説によると、モネなどはターナーの絵をかなり研究して自分の作品の取り入れたそうです。

さらに、独特の「もわ〜っ」画風は、20世紀のマーク・ロスコにも影響を与えたそうです。

というわけで、近現代絵画は、ターナー無しに語れないのであります。

今回、そのターナーを存分に味わえる展示、アートファンなら見逃せないと思います。



イギリス風景画の巨匠
ターナー 風景の詩(うた)

(東京展)
2018年4月24日(火)〜7月1日(日)
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
http://www.sjnk-museum.org/


<巡回>
2月17日〜4月15日 京都文化博物館(終了)
7月7日〜9月9日 郡山市立美術館

公式サイト:
https://turner2018.com/


posted by 宮澤やすみ at 17:54 | Comment(0) | ヨーロッパ(近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月02日

元祖炎上キャラ?マリーアントワネット展

ヴェルサイユ宮殿が監修した「マリー・アントワネット展」が、来場30万人を突破したそうです。

この展示、マリーアントワネットの人となりが見えてとても面白いです。
展示の前半は、フランスの王家に嫁ぎ、華やかなセレブ生活の章。
(写真はプレス内覧会で許可を得て撮影)

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プライベートルームの再現も

ファッションや言動がいつも注目されて、人気の半面、批判も多かったようで・・・

誤解から始まった「首飾り事件」の顛末などは、まさにゴシップ炎上ネタ。それでまた注目を浴びるのだから、現代のセレブと変わらないです。

子育てを経て大人の魅力を兼ね備えたマリーですが、悲劇は突然訪れます。フランス革命です。

牢獄に幽閉されると、夫は処刑(家族の最後の別れのシーンを描いた絵が泣ける)。
それでもマリーは毅然とした態度を崩さず自分も処刑台に向かいます。幽閉時や処刑時に着用していた下着や靴がリアルです。

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いきなり牢獄に捉えられるマリー

展示前半の明るくハチャメチャなノリと、後半の重苦しい雰囲気の落差が激しすぎてクラクラします(笑)。
その暗い空気のまま展示が終わるので、気を付けてくださいね。

今月26日まで。夜もやっているから駆け込みでどうぞ。


「ヴェルサイユ宮殿≪監修≫ マリー・アントワネット展 
美術品が語るフランス王妃の真実」

2016年10月25日(火)−2017年2月26日(日)
休館なし
森アーツセンターギャラリーにて
http://www.ntv.co.jp/marie/

 
posted by 宮澤やすみ at 17:44 | Comment(0) | ヨーロッパ(近代) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする