2016年09月20日

別格の観音さんとなかまたち大集合!「平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」

東京国立博物館で「櫟野寺の大観音とみほとけたち」プレス内覧会に行ってきました。
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あの巨大な本尊のほか、全20体の仏像がずらり!展示室に入った瞬間、つま先から頭のてっぺんまでゾワゾワと電流が走る、ブツ欲全開の興奮であります!
(写真は特別に許可を得て撮影)


巨大観音のひみつ
擽野寺は「らくやじ」と読みますよ。
忍者で有名な滋賀県の甲賀地方は、古代から都と地方を結ぶ要地で、奈良の大仏は当初この地で造られる計画でした。
そんな甲賀の南端にある擽野寺の大観音。比叡山延暦寺の建立に使う用材をこの地に求めて、櫟(いちい)の霊木に観音像を刻んだのが由来とされてます。
実際は、もう少しだけ後の時代になるようですが、なにしろ都から離れた「かくれ里」の地で、平安時代の前半から大規模なお寺と仏像が造られ、今に残っています。

本尊の観音像は、像高3.12m。台座と光背を入れると総高5.3mと圧倒的な存在感。
仏像の大きさの基準は、像の底部から髪の生え際までの「髪際高(はっさいこう)」で測るのだそうで、この像の髪際高は約2.4m。
まさに仏像の大きさのスタンダードとされる「丈六仏」の大きさになってます(立像だと4.8m、坐像で2.4m)。
都の仏像ではないですが、そのへんはいい加減にせず、きっちりやってるというわけです。

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報道陣も大興奮の存在感!

仏の背丈は、一丈六尺(丈六)とされますが、意外と大きいんですよね。
インドと中国での尺貫法やなんかの事情もあり、このサイズが言われるようになりました。

今回は、この像を間近で見られるチャンス。
衣の表面には、びっしりと描かれた極彩色の宝蔵華(仏教世界での花文様)がうっすらと残っています。(制作当初のものかは不明とのこと)。

学芸員の丸山士郎さんによると、お腹にあるしわの表現は、天台宗の如来像に多い「天台薬師」と呼ばれる表現。観音さんは菩薩ですが、お寺のご本尊ですからやはり如来の風格で表現したかったんでしょうか。そもそも観音はアクティブな立像で表現するのがふつうなのに、どっしり座ってますからね。下膨れの顔に貫禄たっぷりなメタボ体形(失礼w)もまさに如来のよう。これは本尊としての別格な表現なのだと思います。

お寺では、長い間厨子に入っていて見えづらかった。それが今、360度から間近で見られるのです。ぜひその圧倒的存在感を、身体で感じでいただきたいです!


注文主が変わると仏像も変わる?
擽野寺には観音像がたくさん残っているのですが、ひょろっとスレンダーな体形で、きりっと釣り目の表情が特徴で、「甲賀様式」というそうです。

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主役のほかにもいろんな仏像がたくさん集結

図録によると、その姿は、奈良の古いスタイルの観音像からの影響もみられるそうで、たしかにこの目は天平の国宝十一面観音にも通じるものがありそう。都のスタイルです。

奈良の聖武天皇がこの地で大仏造ろうとしたくらいだから、奈良の平城京とのつながりが、まだ残っていたのかもしれないですね。歴史ロマンであります。

しかし、展示室最後に並ぶ仏像たちは平安後期の像で、こちらは優しさと親しみやすさが込められた造型。地方らしい素朴な作り。
時代が経るにつれ、注文主が都系の貴族から土着の士族に変わったのではと指摘があります。
この時代の像にも共通点があって、衣文のデザインがほとんど同じ。作った人(工房)が同じだったことがわかります。
ひとくちに観音像といっても、作る時代、注文主、作る人によってだいぶ変わってくるんですね。

私が印象に残ったのはこちらの像。極端なタレ目がいい。遠い目線がいい!
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大観音以外にも、勇壮な重量級の毘沙門天や、おだやかで朴訥とした風の薬師如来、民衆の願いが込められた地蔵菩薩など、仏像の「おいしいところ」がいっぱい詰まった展示になっています。

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図録の表紙のインパクトがすごい(笑)。実物大の顔をどアップで

特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」
2016年9月13日(火)〜12月11日(日)
月曜休館(9/19、10/10は開館、9/20、10/11休館)
東京国立博物館 本館特別5室にて
http://hibutsu2016.com/
美術館サイト
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1779


【告知】
「アートウォッチャー」筆者・宮澤やすみ登壇
特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」
展覧会チケット付き 宮澤やすみ先生 みどころ事前講座

10月28日(金)13:15集合
東京国立博物館・小講堂にて
※講座後、展覧会チケットをお渡しし、各自鑑賞
お申し込みは、リンク先の「お申し込みカレンダー」→「受付中」をクリック
 
posted by 宮澤やすみ at 17:57 | Comment(0) | 日本(仏像、考古) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月06日

仏像は家族?友人?「観音の里の祈りとくらし展U」

奥びわ湖の仏像を展示した「観音の里の祈りとくらし展U」に行ってきました。
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気分はまるで「仏像立食パーティ」

写真のとおり、広くて明るい会場に、だーっと仏像さんが露出展示。
現地に何回か行ったことがあるので、知った顔の仏像さんもいる。

「いや〜西野さん!ひさしぶり!」

と、西野薬師堂の薬師さんに、声かけちゃいたくなる(なるだけ)、まるでパーティ会場の様な展示室です。

今回の主役である黒田観音寺の観音さんも、現地では厨子に収まり上半身だけしか見えなかったのが、今回は全身、さらに背面まで拝めます。以外に大きく、下半身も精緻に造られています。
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全身があらわになるのは初めて

しかし、この展覧会の特徴は、仏像を国宝だ文化財だと、美術品として扱うのではなく、びわ湖の町や村の一般の人たちが何百年も守ってきたという、民俗学的な背景を知るところにあります。

平安時代の初期、平安京の鬼門(北東)に位置し、比叡山から天台宗系の寺院がたくさん造られた。それが戦乱を経て、寺院はだいたい廃絶になる。それでも、仏像だけは地元の人たちが、戦火を避けるために土に埋めたり川に沈めたりして一生懸命守ってきたのでした。
現在は真宗(阿弥陀如来だけを信奉する)の信徒の方が多いそうですが、それでも天台系の仏像を大事に守る。そこに宗派の壁はありません。

図録でも、”「観音さま」「薬師さま」と高く遠い存在として奉るのではなく、「ウチの観音さん」と、まるで家族のような身近な存在としてとらえている”(展覧会図録より「ウチの観音さん〜湖北の人々のホトケに対する思い〜」佐々木悦也氏 より引用)と書かれています。

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めずらしい「千手千足観音」

そうした「ウチの村のスター」が東京にお出まし。地元の人には誇らしくもあり、またいつもいるはずの”家族”がいなくて寂しい思いもなさっているようです。

そんな身近な存在でありながら、仏像の歴史的価値や、造型的な特徴は、平安時代の秀逸な出来栄えであり、その点でも大変貴重。それがガラスなしの露出展示(一部ガラスケース入り)でしっかり見られるという機会です。

国家権力から自立し、都市国家の様な自治を行ってきた「惣村」の文書や写真もあり、奥びわ湖の独特の歴史風土がわかります。
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自治を貫いた惣村・菅浦(展示写真から)

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村と外界の境界を示す「四足門」(筆者が現地で撮影)

一か月間の短い展示なので、早いうちにどうぞ。
(写真はプレス内覧会で許可を得て撮影)



観音の里の祈りとくらし展U−びわ湖・長浜のホトケたち−
2016年7月5日(火)- 8月7日(日)
東京藝術大学大学美術館 本館 展示室3、4
休日:月曜日(ただし、7月18日は開館)、7月19日
午前10時 - 午後5時(金曜日は午後8時まで)
美術館サイト:
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2016/nagahama2/nagahama2_ja.htm

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奥びわ湖・大浦から竹生島を望む(筆者が現地で撮影)


 
posted by 宮澤やすみ at 17:36 | Comment(0) | 日本(仏像、考古) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月22日

アイドル上京!「ほほえみの御仏 二つの半跏思惟像」展

あの子が東京に来てますよ!
東京国立博物館の「ほほえみの御仏」展が始まりました。
(写真は報道内覧会で許可を得て撮影)

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半跏思惟像を、報道陣が取り囲む

韓国を代表する像と、奈良の中宮寺の像、ほかはゲストなし。
この2体だけで特別展をやるという、いさぎよさ。
この二人だけで場がもっちゃうんですから、その人気者オーラすごいです。

視線を集める”プロのポージング”

ぼくら日本の仏像ファンとしては、やはり中宮寺のこの方を360度ぐるぐると舐めるように見ることができるのは、うれしいことですよね。
後姿、こうなってたんだー!と、感慨ひとしおです。

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間近で見ると興奮もひとしお

世間から「ウルトラマンの原型」だの「浅田真央ちゃん」だの、好き勝手に言われてますが、まあ裏を返せば、それだけ親しまれている証拠。

展示タイトルにもある「ほほえみ」。本当に微妙なほほえみで、その口元にかる〜く中指をあてるポーズはあまりにも有名。もし人間の女子がインスタグラムでこのポーズをしたら、頬に押し付けちゃうんじゃないでしょうか。もしくはカメラを前に緊張して手がぷるぷるしちゃうとか。
そこいくと、さすが仏像。絶妙〜な加減で、絶妙〜な位置に指をあててるんですよね。

あとは、背筋がのびているのも特徴。
身体全体の前傾姿勢がほどよくて、シャンとしてます。
もし普通に「う〜ん」と考え込んだら、もっと前傾するでしょうに。

自然体のようでいて、きっちりポーズをキメている。しかもおだんごヘアですもん。これはなかなかのやり手ですよ(完全に妄想入ってます)。
ひとくちに言えば、この中宮寺の像は「人に見られ慣れてる」。
みんながジロジロ見ても涼しい顔(妄想です)。
ふつうの人間ではこうはいきませんね。

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ふたりとも向き合いながら、考え中(笑)

クスノキは信仰の証

このお像、お寺では長く如意輪観音菩薩として礼拝され、今も御朱印には如意輪観音と書かれます。しかし、現代では半跏思惟の姿は弥勒菩薩を指すというのが一般的。(中宮寺のWEBサイトでも、以前は「弥勒菩薩」の表記がありましたが、今は「菩薩半跏像」になってます)
まあどっちにしろ、美しく貴重な仏像であることは確かです。

この時代の木像はクスノキが主流(広隆寺の像はアカマツですが)。
筆者の先輩の宗教学者の先生によると、古代人はクスノキに神性を見出したそうです。神道では奇瑞を示す神の魂を「奇魂(くしみたま)」と言ったりします。
クスノキは、もともと神が宿る木という意味で「奇木(くすのき)」と言われたそうで、要するに霊木。当時は外来の宗教だった仏教も、こうした考えから奇木を使って仏像を造ったようです。

中宮寺の像は、独特な寄木造り(よせぎづくり:小さな部材を組み合わせて像を造る技法)をしているのも特徴。
ふつう、寄木造りというと、平安時代後半に確立したシステマティックな技法が知られますが、飛鳥時代にもあった。
しかし、確立したノウハウは無かったようで、だいぶ無理して木の小片を挟み込んで、釘をいっぱい打ち込んで、なんとか造り上げたそう。
それもこれも、絶妙な腕の角度や首の位置、完璧なフォルムを造りたい!という強い意志があったんでしょうね。ノウハウが無くても、前例が無くても、当時の仏師さんが理想をめざして、相当な試行錯誤を乗り越えたんでしょう。
何日も自宅を開け、給料は雀の涙、女房にはあきれられ、娘にも嫌われた。それでも理想の作品のために、人生を賭して、クスノキと格闘する仏師・・・(また妄想入ってます)
そんな仏師の努力を想うと、胸が熱くなるのです。

三国時代と飛鳥

一方の、韓国の仏像、国宝78号像もみごたえたっぷりです。
謎めいた冠装飾、衣のきっぱりと力強い線描、後ろにたなびく羽衣の斬新な表現など、
古代の美しさにあふれています。
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韓国国宝78号半跏思惟像

日本で知られているのは、この像と並ぶ国宝83号像がありまして、よく京都・広隆寺の像とそっくりと言われます(Wikipédiaとかに出てます)。
今回の国宝78号さんは、有名な83号さんよりも少し古い様式だそうで、出自も不明で謎めいた感じが良いです。
当時の朝鮮半島は「三国時代」といって、高句麗、新羅、百済の三国があった。
日本も、この三国といろいろ貿易やら戦争やらあったそうで、わりとぐちゃぐちゃややこしい時代なんですね。
だから、展示の仏像がどの国で造られたのか、よくわかっていません。
図録を読んでも、衣文のデザインが百済っぽいとかあるものの、不明だそうです。

古い古い時代の遺物に、明確な情報が無いことがふつうですから、ぼくら鑑賞者は、歴史ミステリーとして想像をふくらませて楽しむのがよいと思います。

いつになってもインポートブランドが好きな日本人

飛鳥時代の日本(倭国)は、国際交流の時代。
こうした朝鮮半島や、その背後にある中国(南北朝、隋、唐)と盛んに交流して、当時最新トレンドだった仏教を取り入れた。

それまで日本に無かったお寺とか仏像が出来て、日本の人はきっとびっくりしたでしょうね。
東京・お台場に自由の女神が置かれて、デートスポットになるのとはわけがちがう。
明治初期に、馬車に代わって、巨大な黒い機関車が煙上げて線路を走ったのと、衝撃度は似ているでしょうか(よくわからないけど)。

仏像も鉄道も、当初は衝撃的な外来文化だったけど、次第に「ふつう」になっていく。
日本人は、いつになっても外来物が好き。しかもそれを、あたかも日本に昔からあったかのようなレベルまで、消化していくという、不思議な国であります。

今回の展示、短い期間なのでご注意を。

特別展 ほほえみの御仏 二つの半跏思惟像
2016年6月21日(火)─2016年7月10日(日)
東京国立博物館 本館特別5室
展覧会サイト
http://hankashiyui2016.jp


























posted by 宮澤やすみ at 16:19 | Comment(0) | 日本(仏像、考古) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする